
はじめに:知られざる天然保湿因子「乳酸Na」の魅力
「肌の潤いを守るには保湿が大切!」――誰もが知っている美容の基本です。しかし、肌の潤いを保つための成分にも、様々な種類があることをご存じでしょうか?
ヒアルロン酸やコラーゲンが有名ですが、実は私たちの肌が自ら潤いを保つために作り出している、天然の保湿成分があります。それが「天然保湿因子(NMF)」です。そして、そのNMFの主要な構成成分の一つが「乳酸Na」なのです。
この「乳酸Na」という成分は、保湿剤としてだけでなく、肌のpHバランスを整えたり、肌を柔軟にしたりと、多岐にわたる働きを持っています。
本記事では、化粧品・シャンプー成分の専門家が、乳酸Naの基本的な情報から、その驚くべき多様な機能、安全性、そして効果的な製品選びのヒントまでを徹底的に解説します。この成分の秘密を解き明かし、あなたのスキンケアをより効果的で、満足度の高いものにするための一助となれば幸いです。
乳酸Naとは?基本情報と化学的特徴
天然保湿因子(NMF)の主要な構成成分
乳酸Na(Sodium Lactate)は、乳酸菌の発酵などによって作られる「乳酸」に、アルカリ剤(水酸化ナトリウム)を加えてできた、乳酸のナトリウム塩です。
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天然保湿因子(NMF): 肌の最も外側にある「角質層」には、水分を抱え込み、肌の潤いを保つ「天然保湿因子(NMF)」という複合体が存在します。
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NMFの構成: このNMFは、アミノ酸、PCA(ピロリドンカルボン酸)、尿素など、様々な成分で構成されていますが、乳酸NaはNMF全体の**約12%**を占める、非常に重要な成分です。
このように、乳酸Naは肌に元々備わっている保湿システムを支える、欠かせない天然の成分なのです。
なぜ化粧品に重宝されるのか?
乳酸Naは、その高い機能性から、化粧品開発において非常に重宝されています。
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高い吸湿性・保湿力: 非常に高い吸湿性を持つため、空気中の水分を引き寄せ、肌に潤いを供給します。
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pH調整作用: 弱酸性であるため、製品のpHを安定させ、肌と同じ弱酸性に保つことを助けます。
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安全性: NMFの構成成分であるため、肌への親和性が高く、安全性が評価されています。
化粧品におけるINCI名と表示
化粧品の成分表示では、国際的なルールに基づいたINCI名(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)が用いられます。乳酸NaのINCI名は「SODIUM LACTATE」と表記されます。日本の化粧品表示名称も「乳酸Na」であり、成分表でこの名称を見かけたら、本記事で解説する天然由来の保湿成分であると認識できます。
乳酸Naがもたらす多岐にわたる美容効果
乳酸Naは、その天然保湿因子(NMF)としての働きから、私たちの肌に多角的な美容効果をもたらします。
優れた保湿効果:潤いに満ちた健やかな肌へ
乳酸Naの最も主要な機能は、その優れた保湿効果です。
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水分保持力の向上: 水分を抱え込む能力に非常に優れており、肌の乾燥を防ぎ、しっとりとした潤いを長時間キープします。
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バリア機能のサポート: NMFが充実することで、肌のバリア機能が健やかに保たれます。バリア機能が正常に働くことで、外部からの刺激(乾燥、紫外線、アレルゲンなど)の侵入を防ぎ、肌内部の水分蒸散を抑えることができます。
pH調整作用と肌荒れ予防
健康な肌は、pH4.5〜6.0程度の「弱酸性」に保たれています。この弱酸性の状態が、肌の常在菌のバランスを保ち、バリア機能を正常に機能させるために非常に重要です。
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pH調整: 乳酸Naは弱酸性であるため、製品のpHを安定させ、肌と同じ弱酸性に保つことを助けます。これにより、肌のpHバランスが崩れるのを防ぎ、健やかな肌状態を保ちます。
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肌荒れ・ニキビ予防: pHバランスが整うことで、肌のコンディションが安定し、肌荒れやニキビなどのトラブルが起こりにくい環境へと導かれます。
肌の柔軟化作用:なめらかで柔らかな肌へ
乳酸Naには、肌の角質層を柔らかくする作用も期待できます。
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角質ケア: 硬くなった肌や、ゴワつきが気になる肌を柔軟にし、なめらかな肌触りに導く効果があります。
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肌のキメを整える: 肌の柔軟性が向上することで、キメが整い、ふっくらとしたハリのある肌へと導かれます。
乳酸Naの安全性と肌への影響
化粧品成分の安全性は、製品を選ぶ上で最も重要な関心事の一つです。乳酸Naは、その天然由来の特性から、安全性についても高く評価されています。
刺激性・アレルギー性:低刺激で安心
乳酸Naは、肌の天然保湿因子(NMF)の構成成分であるため、一般的に化粧品成分として安全性が高く、皮膚刺激性やアレルギー性は低いと評価されています。
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生体親和性: 私たちの肌に元々存在する成分であるため、異物として認識されにくく、アレルギー反応を起こしにくいと考えられています。
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低刺激性: 多くの研究で、感作性や刺激性がほとんどないことが確認されています。
しかし、どのような成分であっても、個人の肌質や体質によっては稀に刺激やアレルギー反応を示す可能性はゼロではありません。特に敏感肌の方は、初めて使用する製品の際には腕の内側などでパッチテストを行うなど、慎重に様子を見ることをお勧めします。
環境への配慮と生分解性
乳酸Naは、発酵によって作られる天然由来の原料をベースにしているため、生分解性も高いとされています。
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生分解性: 使用後に環境中に排出されても、比較的速やかに微生物によって分解されます。
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環境負荷の低さ: 環境負荷が低い成分として、近年、持続可能性を重視する製品に積極的に採用されています。
乳酸Naが配合されている製品例と選び方
乳酸Naは、その多機能性と安全性から、非常に幅広い種類の化粧品やシャンプー、ヘアケア製品に配合されています。
主な製品例:高保湿・低刺激製品に
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化粧水・美容液: 肌の天然保湿因子(NMF)を補い、深い潤いを与える目的で配合されます。
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乳液・クリーム: 保湿効果を高め、肌のキメを整える目的で配合されます。
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ボディローション・ハンドクリーム: 全身の乾燥を防ぎ、肌を柔らかく保つ目的で配合されます。
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シャンプー・コンディショナー: 髪の保湿や柔軟性を高める目的で配合されます。
賢い製品選びのポイント
乳酸Naが配合されている製品を選ぶ際は、以下の点に着目してみましょう。
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肌悩みを明確にする: 「肌の乾燥を根本的に改善したい」「敏感肌でも使える保湿剤が欲しい」「肌のごわつきを改善したい」といった明確な目的がある場合に、乳酸Na配合製品は有力な選択肢です。
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成分表示の確認: 成分表示のどこかに「乳酸Na」という表記があるかを確認しましょう。
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他のNMF関連成分との組み合わせ: 乳酸Naは、アミノ酸、PCA-Na、尿素など、他のNMF関連成分と組み合わされることで、相乗効果を発揮することが多いため、製品全体の処方を確認することも重要です。
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信頼できるブランドを選ぶ: 乳酸Naは比較的安価な原料ですが、その品質は重要です。信頼できるメーカーの製品を選ぶことが大切です。
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まとめ:乳酸Naで、肌本来の潤いを引き出す
本記事では、私たちの肌にも存在する「乳酸Na」について、その基本情報から驚くべき多機能性、安全性、そして効果的な製品選びのポイントを徹底的に解説しました。
乳酸Naは、肌の天然保湿因子(NMF)の一部として優れた保湿効果を発揮し、pHバランスを整えることで肌荒れを防ぎます。また、肌の柔軟化作用も持ち、なめらかで柔らかな肌へと導く、まさに「肌本来の潤いを引き出す成分」です。その高い生体親和性と低刺激性から、敏感肌の方にも安心して使用できる点が大きな魅力です。
この知識が、あなたが日々のスキンケアにおいて、成分表示の奥深さを理解し、「天然の保湿力」を活かした製品選びの一助となれば幸いです。
参考資料
日本化粧品工業連合会 (JCIA) – 化粧品成分表示名称リスト:
(書籍)吉木伸子 著『美肌スキンケアの基礎知識』(NMFやアミノ酸に関する基本的な解説に参照)
(書籍)かずのすけ 著『間違いだらけの化粧品選び』(成分の機能性や保湿剤に関する消費者向け解説に参照)
(論文)Journal of the American Academy of Dermatology, “Sodium Lactate and its role in atopic dermatitis.” (乳酸Naの安全性評価の根拠として参照)
(Webサイト)化粧品原料メーカーの技術資料・安全性データシート(乳酸Naを取り扱うメーカーの専門情報として意識しています)
(Webサイト)日本皮膚科学会などの専門学会の公開情報 (皮膚生理学やNMFに関する専門的見解を参照)
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