
はじめに:シャンプー選びの大きな迷い「シリコン vs ノンシリコン」
「シャンプー、どれを選べばいいんだろう?」多くの人が一度は抱く疑問ではないでしょうか。ドラッグストアやバラエティショップのシャンプーコーナーに行くと、あまりにも多くの種類があり、その中でも特に目立つのが「シリコンシャンプー」と「ノンシリコンシャンプー」という表記です。一時期は「ノンシリコンの方が髪に良い」というイメージが先行し、ノンシリコンがブームとなりましたが、果たしてそれは本当なのでしょうか?
本記事では、化粧品成分の専門家が、この長年の論争に終止符を打つべく、シリコンシャンプーとノンシリコンシャンプーのそれぞれの特徴、メリット・デメリット、そして正しい選び方を徹底的に解説します。あなたの髪質や悩みに本当に合ったシャンプーを見つけるための、具体的なヒントがここにあります。
シリコンとは?シャンプーにおける役割と種類
シリコンの正体:シリコーンオイルとその特徴
「シリコン」と聞くと、何か人工的で髪に良くないもの、というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、化粧品やシャンプーに配合される「シリコン」とは、正確には「シリコーン」と呼ばれる高分子化合物であり、特に「シリコーンオイル」のことを指します。
シリコーンオイルは、ケイ素(Si)と酸素(O)を骨格とし、そこに有機基(メチル基など)が結合したポリマーです。非常に安定した構造を持ち、水にも油にもなじみにくい性質(撥水性・撥油性)があります。また、熱にも強く、電気を通しにくいといった特性も持ち合わせています。
シャンプーによく使われるシリコーンの種類としては、以下のようなものがあります。
-
ジメチコン(Dimethicone):最も一般的なシリコーンで、滑らかな感触を与えます。
-
アモジメチコン(Amodimethicone):髪に吸着しやすく、ダメージ補修効果が高いとされます。
-
シクロペンタシロキサン(Cyclopentasiloxane):揮発性が高く、べたつきにくいのが特徴です。サラサラとした使用感に貢献します。
シャンプーにおけるシリコンの主な役割
なぜ、多くのシャンプーにシリコンが配合されているのでしょうか?それには、以下のような明確な目的とメリットがあるからです。
指通りの向上と摩擦軽減
シリコンは、髪の表面に薄い膜を形成することで、キューティクルを滑らかにします。これにより、シャンプー中の指通りが格段に良くなり、髪が絡まるのを防ぎます。特に、濡れた状態の髪は非常にデリケートで、摩擦によるダメージを受けやすいため、シリコンの滑沢効果は髪への負担を減らす上で非常に有効です。
ツヤと手触りの改善
髪の表面が滑らかになることで、光を均一に反射しやすくなり、髪に自然なツヤを与えます。また、手触りもサラサラ、あるいはしっとりと滑らかになり、触れた時の感触が向上します。これにより、見た目も美しく、触っても気持ちの良い髪へと導きます。
ダメージ保護と乾燥防止
シリコンの膜は、ドライヤーの熱やブラッシングなどの外部刺激から髪を保護するバリアのような役割も果たします。また、髪内部の水分蒸発を防ぐことで、乾燥によるパサつきを抑え、潤いをキープする効果も期待できます。カラーリングやパーマなどでダメージを受けやすい髪には、特にメリットが大きいと言えるでしょう。
シリコンシャンプーのメリットとデメリット
シリコンの役割を理解した上で、具体的にシリコンシャンプーを使うことのメリットとデメリットを考えてみましょう。
シリコンシャンプーのメリット
-
高いコンディショニング効果: 洗い上がりから、髪の指通りが良く、絡まりにくい。
-
ツヤと潤いの実感: 髪表面が整うことで、見た目のツヤが増し、手触りも滑らかになる。
-
摩擦ダメージの軽減: シャンプー中やタオルドライ時の摩擦を減らし、切れ毛や枝毛を防ぐ。
-
価格帯の幅広さ: 大量生産が可能で、比較的安価な製品から高価な製品まで選択肢が豊富。
-
ドライヤー時間の短縮: 髪表面が滑らかになることで水切れが良くなり、乾燥時間が短縮される傾向がある。
シリコンシャンプーのデメリット(誤解も含む)
かつて、「シリコンは髪や頭皮に良くない」という声が広まりましたが、これには多くの誤解が含まれています。
-
髪や頭皮への蓄積と毛穴詰まり?: 「シリコンが髪や頭皮に残留して毛穴を詰まらせ、薄毛の原因になる」という説がありましたが、これは科学的根拠に乏しい誤解です。シャンプーに配合されるシリコーンは非常に微粒子であり、適切な洗浄でほとんどが洗い流されます。毛穴を詰まらせるほどの厚い膜を形成することもありません。
-
カラーやパーマの妨げになる?: シリコンが髪表面をコーティングすることで、カラー剤やパーマ液の浸透を妨げる、という意見もありましたが、これも一般的な使用においてはほとんど影響がないことが確認されています。プロの美容室でも、必要に応じてシリコン配合のプレシャンプーを使用することもあります。
-
べたつきや重さ: 配合されているシリコーンの種類や量、髪質によっては、べたつきや重さを感じる場合があります。特に、細い髪や軟毛の方、あるいは多めに使用しすぎた場合に、ぺたっとした仕上がりになることがあります。
重要なのは、シリコンそのものが悪者なのではなく、その配合量や種類、そしてシャンプー全体の処方によって、仕上がりや使用感が大きく変わるという点です。
ノンシリコンシャンプーとは?誕生の背景と目的
ノンシリコンブームの背景
2000年代後半から、「ノンシリコン」という言葉が美容業界に登場し、瞬く間にブームとなりました。その背景には、「シリコンは髪に良くない」「シリコンフリーの方が髪本来の力を引き出す」といったイメージが広まったことがあります。
しかし、前述の通り、これは多くの場合、シリコンに対する誤解から生じたものです。メーカー側も、消費者の「シリコンフリー」へのニーズに応える形で、ノンシリコンシャンプーの開発・販売を加速させました。
ノンシリコンシャンプーの定義と特徴
「ノンシリコンシャンプー」とは、その名の通り、「シリコーン(シリコン)を配合していないシャンプー」のことです。
シリコーンを配合しない代わりに、天然由来のオイル(アルガンオイル、ホホバオイルなど)や植物エキス、アミノ酸誘導体、PPT(ポリペプチド)などの成分が配合され、髪の潤いや指通りを補うように設計されています。
主な特徴としては、以下のような点が挙げられます。
-
髪本来の軽さ・ふんわり感: シリコンによるコーティングがないため、髪が軽やかに仕上がり、ふんわりとしたボリュームが出やすい傾向があります。
-
素髪感: 髪の毛一本一本が持つ、本来の手触りや質感を感じやすいと言われます。
-
頭皮への配慮: シリコンが頭皮に残留するという誤解から、頭皮への優しさをアピールする製品が多いですが、実際には洗浄成分の選択が頭皮への優しさを大きく左右します。
ノンシリコンシャンプーのメリットとデメリット
ノンシリコンシャンプーのメリット
-
軽やかな仕上がり: 細い髪や軟毛の方、ボリュームを出したい方に適している。
-
素髪感: 髪本来のハリやコシを感じやすい。
-
べたつきにくい: シリコンによる重さやべたつきが気になる方には適している。
-
頭皮への懸念が少ない(心理的効果も含む): シリコン残留への不安が解消される。
-
スタイリングのしやすさ: 髪が軽いため、パーマのウェーブが出やすかったり、ワックスなどでスタイリングしやすかったりする場合がある。
ノンシリコンシャンプーのデメリット
-
指通りの悪さ・きしみ: 特にシャンプー中や濡れた状態の髪は、シリコンがない分、指通りが悪くなり、きしみを感じやすい傾向があります。これは、摩擦によるダメージにつながる可能性も。
-
パサつき・乾燥: 髪表面のコーティングがないため、ドライヤーの熱や紫外線などの外部刺激から髪が保護されにくく、乾燥しやすいと感じる人もいます。
-
ツヤの出にくさ: シリコンによる光沢がないため、髪本来のツヤが出にくい場合があります。
-
高価な傾向: シリコンの代替となる成分(天然オイル、アミノ酸系成分など)が高価な場合があり、製品全体の価格が高くなる傾向があります。
-
コンディショナー・トリートメントが必須: シャンプー後のきしみを補うため、ノンシリコンシャンプーとセットでノンシリコンのコンディショナーやトリートメントの使用がほぼ必須となることが多いです。
シリコンシャンプーとノンシリコンシャンプー、結局どちらを選ぶべきか?
ここまで、それぞれのメリット・デメリットを見てきましたが、では結局、どちらのシャンプーがあなたに合っているのでしょうか?結論から言えば、「どちらが絶対に良い」というものではなく、あなたの髪質や悩み、求める仕上がりによって最適な選択は異なります。
シリコンシャンプーがおすすめな人
-
髪のダメージが気になる人: カラーやパーマなどで髪が傷んでいる場合、シリコンのコーティングが髪を保護し、手触りを改善します。
-
髪の絡まりやきしみが気になる人: シャンプー中の摩擦を減らし、指通りを良くしたい。
-
髪にツヤと潤いが欲しい人: シリコンが髪表面を整え、光沢を与えます。
-
しっとりとしたまとまりが欲しい人: 乾燥による広がりやパサつきを抑えたい。
-
ドライヤーの時間を短縮したい人: 水切れが良く、乾きやすい。
-
比較的安価で高性能なシャンプーを求める人: コストパフォーマンスに優れている製品が多い。
ノンシリコンシャンプーがおすすめな人
-
髪のボリュームが欲しい人: 細い髪や軟毛で、髪がぺたっとなるのを避けたい。
-
髪の軽さやふんわり感を重視する人: 髪本来の動きや質感を大切にしたい。
-
スタイリング剤の邪魔をしたくない人: 髪に何もつけない「素髪」に近い状態でスタイリングしたい。
-
シリコンの重さが苦手な人: 過去にシリコン配合製品でべたつきを感じたことがある。
-
頭皮に優しいシャンプーを求める人(ただし、洗浄成分の確認が重要): シリコンが直接頭皮に悪影響を及ぼすわけではないが、低刺激な洗浄成分と組み合わせたノンシリコンシャンプーであれば頭皮に優しい場合が多い。
シャンプー選びの真のポイントは「洗浄成分」と「全体処方」
シリコンの有無以上に、シャンプー選びで重要視すべきは**「洗浄成分の種類」と「シャンプー全体の処方」**です。
-
洗浄成分: シャンプーの洗浄力の強さや刺激性は、配合されている界面活性剤の種類によって大きく異なります。
-
高級アルコール系(硫酸系): ラウレス硫酸Na、ラウリル硫酸Naなど。洗浄力が強く、泡立ちも良いが、刺激や乾燥を感じやすい人もいる。
-
アミノ酸系: ココイルグルタミン酸TEA、ラウロイルメチルアラニンNaなど。洗浄力はマイルドで、肌や髪に優しい。
-
ベタイン系: コカミドプロピルベタインなど。非常にマイルドで、泡立ちを補助する。
-
石鹸系: 石ケン素地、カリ石ケン素地など。さっぱりとした洗い上がりだが、アルカリ性のため髪がきしむこともある。
乾燥肌や敏感肌の方は、アミノ酸系やベタイン系の洗浄成分が主体のシャンプーを選ぶと良いでしょう。
-
-
全体処方: シャンプーは複数の成分が組み合わされてできています。シリコンの有無だけでなく、保湿成分(セラミド、ヒアルロン酸など)、補修成分(加水分解ケラチン、植物性タンパクなど)、天然オイル(アルガンオイル、ホホバオイルなど)など、他の配合成分が髪や頭皮にどのような効果をもたらすかを確認することが大切です。
シリコンシャンプーとノンシリコンシャンプーに関するQ&A
Q1. シリコンは本当に髪や頭皮に悪いものですか?
A1. 科学的根拠はありません。 シリコン(シリコーン)は非常に安全性の高い成分であり、化粧品や医療分野でも広く使用されています。シャンプーに配合されているシリコンが髪や頭皮に蓄積してトラブルを引き起こすという明確な科学的根拠は現在のところありません。むしろ、適切に配合されたシリコンは、髪の保護や使用感向上に役立つメリットの多い成分です。
Q2. ノンシリコンシャンプーを使えば、髪が健康になりますか?
A2. ノンシリコンだからといって、必ずしも健康になるわけではありません。 髪の健康は、洗浄成分の選択、保湿・補修成分の配合、日頃のヘアケア方法、生活習慣など、様々な要因によって決まります。ノンシリコンシャンプーの多くは頭皮への優しさを考慮して作られていますが、シリコンを配合していないことで、髪がきしみやすくなったり、乾燥しやすくなったりすることもあります。大切なのは、あなたの髪質や悩みに合った「全体処方」のシャンプーを選ぶことです。
Q3. シリコンとノンシリコン、季節によって使い分けるべきですか?
A3. 髪や頭皮の状態に合わせて使い分けるのは良い方法です。 例えば、夏は汗をかきやすく、頭皮のべたつきが気になる場合は、比較的さっぱりとしたノンシリコンシャンプーを試してみるのも良いでしょう。冬は乾燥が気になるので、シリコン配合でしっとりとした仕上がりのシャンプーが適しているかもしれません。また、カラーやパーマで髪が傷んだ時はシリコンシャンプーでしっかり保護し、髪のダメージが少ない時はノンシリコンで軽さを楽しむなど、状態に合わせて使い分けるのがおすすめです。
関連商品

まとめ:自分に合ったシャンプーを見つけるために
「シリコンシャンプー」と「ノンシリコンシャンプー」は、単にシリコンが配合されているか否か、という違いだけでなく、それぞれの製品が持つコンセプトや目指す仕上がりが大きく異なります。
一概にどちらが良いと断言することはできませんが、重要なのは、シリコンの有無に惑わされず、あなたの髪質、頭皮の状態、そして「どのような仕上がりを求めているか」という視点から、シャンプーを選ぶことです。
-
ダメージが気になる、ツヤやまとまりが欲しいなら、シリコンシャンプーも良い選択肢です。
-
髪の軽さ、ふんわり感、素髪感を楽しみたいなら、ノンシリコンシャンプーを試してみましょう。
そして何よりも、シャンプーの洗浄成分が肌や頭皮に合っているか、保湿成分や補修成分が適切に配合されているか、といった「全体処方」に注目することが、理想の髪へと導く鍵となります。
この情報が、あなたのシャンプー選びの参考となり、健やかで美しい髪を育む一助となれば幸いです。
参考資料
日本化粧品工業連合会 (JCIA) – 化粧品成分表示名称リスト:
消費者庁 – 家庭用品品質表示法に基づく繊維製品の表示の手引き (間接的に成分表示の考え方に関連)
(書籍)かずのすけ著『間違いだらけの化粧品選び』(一般消費者向けに成分を解説している書籍として参照)
(論文)Cosmetic Ingredient Review (CIR) Expert Panel reports on various silicones (例: Dimethicone, Cyclopentasiloxaneなど). (具体的な報告書名は省略しますが、シリコーンの安全性評価の根拠として参照)
(Webサイト)資生堂、花王、P&Gなどの大手化粧品メーカー公式ウェブサイトのQ&Aや製品情報ページ (シリコンに関する企業見解や製品開発の背景を参照)
(Webサイト)@cosmeなどの美容情報サイトの成分解説記事 (消費者目線での情報や疑問点を把握するために参照)
(学術論文・研究機関)国内外の皮膚科学・毛髪科学に関する論文や学会発表(一般的なシリコーンの毛髪への作用メカニズムなど、専門知識の裏付けとして参照)
シリコンシャンプーとノンシリコンの違いは?髪に与える効果や影響とは
ノンシリコンとシリコンの違い|美髪になるシャンプーはどちら?
リンス、トリートメントそしてコンディショナー