「化粧水が肌にスッとなじむ」「美容液がべたつかないのにしっとりする」――私たちが化粧品を選ぶ上で、使用感は非常に重要な要素です。これらの心地よい感触を支える成分の一つが、「DPG」(ジプロピレングリコール)です。
「グリコール」という言葉は、アルコールの一種であり、保湿剤としてよく知られている「グリセリン」や「BG(1,3-ブチレングリコール)」と同じ仲間です。しかし、ジプロピレングリコールは、他のグリコール類にはない、べたつきが少なく、サラサラとした感触を実現する、独自の特性を持っています。
本記事では、化粧品・シャンプー成分の専門家が、ジプロピレングリコール(DPG)の基本的な情報から、その驚くべき多様な機能、安全性、そして効果的な製品選びのヒントまでを徹底的に解説します。この成分の秘密を解き明かし、あなたの美容製品選びをより賢く、より満足度の高いものにするための一助となれば幸いです。
ジプロピレングリコール(Dipropylene Glycol)は、化学的には「グリコール類」に属する多価アルコールの一種です。多価アルコールとは、分子内に水酸基(-OH)を複数持つアルコールの総称です。
保湿剤としての役割: グリセリンと同様に、分子内に水酸基を複数持つため、水分を抱え込む性質(吸湿性)を持ち、優れた保湿剤として機能します。
べたつきの少なさ: グリセリンに比べて分子量がわずかに大きく、粘度が低いため、肌に塗布した際のべたつきが少なく、軽やかな感触を得られるのが大きな特徴です。
ジプロピレングリコールは、その優れた保湿力と、他の保湿剤にはない心地よい使用感から、化粧品開発において非常に重宝されています。
高い吸湿性・保湿力: 空気中の水分を引き寄せ、肌や髪に潤いを供給します。
優れた安定性: 非常に安定した成分であり、製品の品質を長期間安定させる役割も果たします。
汎用性の高さ: 保湿だけでなく、溶媒や粘度調整剤、防腐補助剤など、様々な役割を担います。
化粧品の成分表示では、国際的なルールに基づいたINCI名(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)が用いられます。ジプロピレングリコールのINCI名もそのまま「DIPROPYLENE GLYCOL」と表記されます。日本の化粧品表示名称も「ジプロピレングリコール」であり、成分表でこの名称を見かけたら、本記事で解説する多機能な保湿成分であると認識できます。
DPGは、その単一の成分でありながら、化粧品やシャンプーにおいて多岐にわたる優れた機能を持つ点にあります。ここでは、主な機能について詳しく見ていきましょう。
DPGの最も主要な機能は、その優れた保湿効果です。
水分保持: 水分を抱え込み、肌の角質層に潤いを供給します。肌の水分保持力を高めることで、肌の乾燥を防ぎ、しっとりとした潤いを長時間キープします。
肌の柔軟性向上: 乾燥による肌のごわつきを改善し、なめらかな感触をもたらします。
髪の潤い: 髪の内部に浸透し、髪の水分量を高め、なめらかな手触りにする効果が期待できます。
DPGの大きな魅力は、そのべたつきのない、なめらかな使用感です。
感触改良: グリセリンが持つべたつき感を緩和する働きがあるため、他の保湿剤と組み合わせて使用されることで、より心地よい使用感を実現します。
サラサラ感: 軽くて伸びが良いため、肌に塗布した後のサラサラとした感触を実現します。
溶媒: 水に溶けない油性成分(香料、植物エキスなど)を、水中に均一に溶かし込む溶媒として機能します。これにより、透明な化粧水や美容液に、油分由来の美容効果や香りをプラスすることができます。
粘度調整剤: 製品の粘度を調整し、なめらかなテクスチャーを作り出す役割を担います。
DPGは、保湿効果だけでなく、防腐補助効果も持っています。
抗菌作用: 弱いながらも抗菌作用を持つため、防腐剤の補助剤として利用されます。
防腐剤の使用量削減: 他の防腐剤と組み合わせることで、防腐剤の使用量を減らし、より肌に優しい処方を実現することができます。
DPGは、その多機能性から広く利用されていますが、安全性についてはどのように評価されているのでしょうか。
DPGは、一般的に化粧品成分として安全性が高く、皮膚刺激性やアレルギー性は低いと評価されています。
安全性評価: アメリカの化粧品原料評価委員会(Cosmetic Ingredient Review / CIR)などの専門機関も、化粧品に配合される濃度において、安全であると結論づけています。
低刺激性: 多くの研究で、感作性や刺激性がほとんどないことが確認されています。
しかし、以下のような懸念や注意点が一部で指摘されることもあります。
皮膚への浸透: 分子量が小さいため、肌の角質層に浸透しやすい特性を持っています。
個人の感受性: どんな成分でも、個人の肌質や体質によっては稀に刺激やアレルギー反応を示す可能性はゼロではありません。
DPGは合成成分ですが、生分解性を持つことが確認されています。
生分解性: 使用後に環境中に排出されても、比較的速やかに微生物によって分解されます。
環境負荷の低さ: 環境負荷が低い成分として、近年、持続可能性を重視する製品に積極的に採用されています。
DPGは、その多機能性と安全性から、非常に幅広い種類の化粧品やシャンプー、ヘアケア製品に配合されています。
化粧水・美容液: べたつきを抑えながらも潤いを与える、使用感の良い保湿製品に。
乳液・クリーム: 製品のべたつきを軽減し、なめらかなテクスチャーを作り出すために。
シャンプー・コンディショナー: 髪の保湿、なめらかな手触りを目的として。
ヘアミスト: 髪に潤いを与え、べたつかずにサラサラとした仕上がりを実現します。
DPGが配合されている製品を選ぶ際は、以下の点に着目してみましょう。
求める効果: 「べたつかないのにしっとりする」「サラサラとしたテクスチャーが好き」といった使用感を重視するなら、DPG配合製品は有力な選択肢です。
成分表示の確認: 成分表示の比較的上位に「ジプロピレングリコール」という表記があるかを確認しましょう。
他の保湿成分とのバランス: DPGは、ヒアルロン酸、セラミドなど、他の保湿成分と組み合わされることで、相乗効果を発揮することが多いため、製品全体の処方を確認することも重要です。
本記事では、グリコール類に属する「ジプロピレングリコール」(DPG)が、いかに多機能で重要な成分であるかを徹底的に解説しました。
DPGは、優れた保湿効果とべたつきのないなめらかな使用感を実現します。また、溶媒・粘度調整剤、防腐補助効果といった多様な役割を担い、製品の品質と使用感を支える影の立役者です。
この知識が、あなたが日々の美容製品選びにおいて、成分表示の奥深さを理解し、DPGの力を活かした製品選びの一助となれば幸いです。
日本化粧品工業連合会 (JCIA) – 化粧品成分表示名称リスト: https://www.jcia.org/user/display/contents/102 (ジプロピレングリコールのINCI名確認に参照)
(書籍)吉木伸子 著『美肌スキンケアの基礎知識』(保湿やグリコール類に関する一般的な解説に参照)
(書籍)かずのすけ 著『間違いだらけの化粧品選び』(成分の機能性や肌への影響に関する消費者向け解説に参照)
(論文)Cosmetic Ingredient Review (CIR) Expert Panel reports on propylene glycol. (プロピレングリコールとジプロピレングリコールは同様の評価をされることが多いため、こちらを参照)
(Webサイト)日本皮膚科学会などの専門学会の公開情報 (皮膚生理学に関する専門的見解を参照)