はじめに:成分表に潜む「TEA」の役割

あなたが毎日使う化粧水やシャンプーの成分表示をよく見ると、「TEA」という表記を見つけることがあるかもしれません。

「TEA」と聞くと、お茶(Tea)を連想するかもしれませんが、ここでいうTEAは「トリエタノールアミン」(Triethanolamine)という化学成分の略称です。この成分は、化粧品のpH(ペーハー)を調整したり、水と油を混ぜ合わせたりと、製品の品質と安定性を支える上で、非常に重要な役割を担っています。

しかし、一方で、インターネット上では、その安全性について不安を抱かせるような情報も散見されます。果たして、TEAは私たちの肌にとって本当に安全な成分なのでしょうか?

本記事では、化粧品・シャンプー成分の専門家が、TEAの基本的な情報から、その驚くべき多様な機能、安全性に関する議論の真実、そして効果的な製品選びのヒントまでを徹底的に解説します。この情報を参考に、TEAに対する誤解を解き、あなたが安心して美容製品を選ぶための一助となれば幸いです。

TEA(トリエタノールアミン)とは?基本情報と化学的特徴

pH調整剤・乳化剤として活躍するアルカノールアミン

TEA(Triethanolamine)は、化学的には「アルカノールアミン」に分類される有機化合物です。アルカリ性の性質を持っているため、酸性の成分を中和し、製品全体のpHを調整する役割を担います。

  • pH調整: 弱アルカリ性であるTEAは、製品のpHを中性〜弱アルカリ性に調整します。この調整は、製品の安定性を保つ上で非常に重要です。

  • 乳化作用: 油と水の両方になじむ性質を持つため、水と油を混ぜ合わせる「乳化剤」としても機能します。

なぜ化粧品に重宝されるのか?

TEAが化粧品に広く利用されるのには、その優れた機能性と安定性、そして経済性にあります。

  • 優れたpH調整能力: 非常に効率よく製品のpHを調整し、安定させます。

  • 乳化作用: 脂肪酸などと反応して、乳液やクリームなどの乳化を助け、製品のテクスチャーをなめらかにします。

  • 安全性: 多くの製品で長年にわたり使用されてきた実績があり、安全性が確立されています。

化粧品におけるINCI名と表示

化粧品の成分表示では、国際的なルールに基づいたINCI名(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)が用いられます。TEAのINCI名もそのまま「TRIETHANOLAMINE」と表記されます。日本の化粧品表示名称は「TEA」または「トリエタノールアミン」であり、成分表でこの名称を見かけたら、本記事で解説する多機能成分であると認識できます。

TEAがもたらす多岐にわたる機能性

TEAは、その単一の成分でありながら、化粧品やシャンプーにおいて多岐にわたる優れた機能を持つ点にあります。ここでは、主な機能について詳しく見ていきましょう。

優れたpH調整作用:製品の安定化

TEAの最も主要な機能は、その優れたpH調整作用です。

  • 製品の安定性: 化粧品は、特定のpH範囲で最も安定するよう設計されています。TEAは、酸性になりがちな製品のpHを調整し、製品の分離や変質を防ぎ、品質を長期間安定させます。

乳化剤・可溶化剤としての役割

TEAは、乳化剤可溶化剤としても重要な役割を担います。

  • 乳化作用: 脂肪酸(例:ステアリン酸)とTEAを混ぜ合わせると、石鹸のような界面活性剤が生成され、水と油を均一に混ぜ合わせる乳化剤として機能します。

  • 可溶化作用: 水に溶けない油性成分香料油溶性エキスなど)を、水中に均一に溶かし込む可溶化剤としても機能します。

洗浄補助・分散剤としての機能

TEAは、洗浄製品の働きを助ける役割も担います。

  • 洗浄力の補助: シャンプーや洗顔料に配合されることで、洗浄力や泡立ちを補助する働きがあります。

  • 顔料・有効成分の分散: メイクアップ製品や日焼け止めにおいて、顔料や有効成分を均一に分散させ、ムラのない美しい仕上がりを実現します。

TEAの安全性と懸念に関する真実

TEAは、その安全性について多くの研究が行われ、議論されてきました。その議論の真実を正しく理解することが重要です。

法律による厳格な規制と安全性

日本で流通している化粧品は、「医薬品医療機器等法」という法律によって、使用できる成分の種類、最大配合量、表示方法が厳格に定められています。

  • 安全性評価: TEAは、毒性試験、刺激性試験、アレルギー試験などをクリアし、安全性が確認された成分です。

  • 濃度管理: 製品に配合できる濃度も厳しく制限されており、法律を遵守している製品は、安全性が担保されていると言えます。

「ニトロソアミン」に関する議論の真実

  • ニトロソアミンとは: TEAが特定の成分(例:亜硝酸塩など)と反応して「ニトロソアミン」という発がん性物質を生成する可能性がある、という点が過去に指摘されました。

  • 現代の化粧品: しかし、この議論は、現代の化粧品製造においてはほとんど問題となりません。現在では、TEAを配合する際には、ニトロソアミンを生成する可能性のある成分を同時に配合しないようにするなど、その生成を防ぐための処方がなされています。

  • 専門家の見解: 日本の厚生労働省や欧米の安全評価機関は、適切な処方と管理のもとで配合されるTEAは安全であると結論づけています。

刺激性・アレルギー性

  • 低刺激性: TEAは、一般的に安全性が高いと評価されていますが、ごく稀に、肌質によっては刺激を感じる場合や、アレルギー反応を示す可能性はゼロではありません。

  • 個人の感受性: どんな成分でも、個人の肌質や体質によってはアレルギー反応を起こす可能性があるため、新しい化粧品を試す際は、パッチテストを行うなど、慎重に様子を見ることが大切です。

TEAが配合されている製品例と賢い選び方

TEAは、その多機能性と安全性から、非常に幅広い種類の化粧品やシャンプー、ヘアケア製品に配合されています。

主な製品例:あらゆる化粧品・シャンプーに

  • 洗顔料・シャンプー: 脂肪酸とTEAが反応してできた洗浄成分(石鹸)が配合されます。

  • クレンジング: メイク汚れを浮かせ、乳化させるために。

  • 乳液・クリーム: 水と油の乳化剤として。

  • 化粧下地・ファンデーション: 顔料を分散させ、製品のテクスチャーをなめらかにするために。

賢い製品選びのポイント

  • 成分表示の確認: 成分表示の比較的下位に「TEA」という表記がある場合、主にpH調整剤として配合されている可能性が高いです。

  • 肌質との相性: TEA自体は安全ですが、TEAを配合することでアルカリ性に傾いた製品は、乾燥肌や敏感肌の方には刺激となる場合があります。

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まとめ:TEAを正しく理解し、賢い美容体験を

本記事では、化粧品やシャンプーの成分表に潜む「TEA」(トリエタノールアミン)について、その基本情報から優れた機能性、安全性に関する真実、そして賢い製品選びのポイントを徹底的に解説しました。

TEAは、優れたpH調整作用乳化作用で製品の品質を保ち、私たちの美容製品を、より安全で快適なものにする影の立役者です。ニトロソアミンに関する不安は、現代の化粧品では適切に対処されており、安全性が確立されています。

この知識が、あなたが日々の美容製品選びにおいて、成分表示の奥深さを理解し、TEAに対する不安を払拭し、本当に自分に合った製品を見つける一助となれば幸いです。

参考資料

日本化粧品工業連合会 (JCIA) – 化粧品成分表示名称リスト: https://www.jcia.org/user/display/contents/102 (TEAのINCI名確認に参照)

(書籍)かずのすけ 著『間違いだらけの化粧品選び』(成分の機能性やpHに関する消費者向け解説に参照)

(論文)Cosmetic Ingredient Review (CIR) Expert Panel reports on triethanolamine. (TEAの安全性評価の根拠として参照)

(Webサイト)厚生労働省の医薬品医療機器等法に関する情報 (化粧品の安全性に関する法律の根拠として参照)